My Fulbright Story

No.1 Oikawa Ayako

40以上の国・地域からフルブライターが集まった Fulbright Visiting Scholar Enrichment Program

How to Reduce the Family Burden for Aged Caregiving

大学院では高齢者福祉に関する政策論などを受講。活発な議論に刺激を受けつつ、友人たちに助けられた。
大学院の寮に住み、たこ焼きパーティーを開催
指導教官と

2025年、日本は団塊の世代が75歳以上になり、医療、介護体制は追いつかなくなる。高齢者の居場所が施設から在宅へと移り、介護する家族の負担は増え続けている。記者として、介護に追われた家族が、自らの健康を害したり、介護殺人を起こしてしまったりするケースを、取材してきた。

「介護を担う家族の負担をどう減らせばいいか」。非営利団体や地域が家族介護者に対して、様々なサービスや独自の取り組みを行っている米国で調査したいと思い立った。

米国では、社会福祉大学院がある University of Pennsylvania に「フルブライト客員研究員」として在籍した。高齢者福祉に興味をもつ世界各国の学生が集まり、認知症に特化した施設を備えているのも魅力だった。授業を聴講しながら、休みを利用して家族をケアする NPO や病院、施設を取材した。

米国滞在中、一番苦労したのは語学だった。これまで海外留学の経験はゼロ。そのため、渡航前に高齢者福祉に関する専門用語を、英語で徹底的に覚えた。また、これまで自分が書いた記事を英訳した冊子を作り、訪問先に配った。取材するだけでなく、介護殺人や無理心中といった日本の問題を紹介すると「ここまで日本は深刻なのか」と驚かれた。今後、多くの国が抱える高齢化問題を世界各国の人々と共有し合う大切さを実感した。

日本には、ジャーナリスト向けの奨学金は数少なく、滞在費や渡航費、研究費などを給付してくれるフルブライト奨学金はありがたかった。ただそれ以上に感じたのは、米国での「フルブライター」の肩書の強さだ。

日本では新聞社名を名乗れば、スムーズに取材のアポが入ることは多い。しかし、米国ではそうはいかない。日本の新聞社を知らない人が多いからだ。そんな時、フルブライターであることを名乗ると、安心して取材を受けてくれたり、知人にフルブライターを紹介することを誇りに感じてくれたりする人もいた。「これまで先人たちが積み上げていたもの、功績があるからこそ。その分、自分もフルブライターとしての責任を感じています」

帰国後、米国での調査をもとに、高齢者を介護する家族を支援する米国の仕組みについての連載(2016年12月14, 15日)や、性的少数者(LGBT)の老後支援(2016年11月7日)などを朝日新聞全国版で書いてきた。また、朝日新聞デジタルではオンライン連載「幸せな老いを探して 米国留学で見たこと」を随時配信している。米国各地で高齢者はどのように老いと向き合い、どんな支援を受けているのかを、日米の比較もしながら伝えている。

実は、自身が大学生の時、祖父が脳内出血で倒れ、高齢だった祖母がつきっきりで介護していた。介護されている人だけでなく、している側も支援したいと思ったのも、疲れ果てた祖母の姿を見てきた。「介護で苦しい思いをして自ら命を絶とうと考えたり、高齢者と一緒に死のうと思ったりする人がいたとき、私の記事を読んだことで思いとどまってくれるような記事を書きたい」