My Fulbright Story

No.16 Nagatomi Mari

カントリーシンガーであり研究者、二つの顔を持つ異色のフルブライター

Oral History Association の学会にて
フルブライト仲間に紹介していただいたカントリーミュージック研究をされている Amanda さんと(LAにて)

毎週土曜日、京都のライブハウスで歌うかたわら、同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科の博士課程に在籍し、カントリー音楽について研究する。カントリーシンガーであり研究者という、異色のフルブライターだ。

父親がカントリー音楽のバーを経営していたため、小さい頃から米国音楽に親しんできた。そのため、音楽は人種やジェンダー、国籍を超えると信じていた。日本には国境を越えてあらゆる米国音楽が浸透していたし、米国ではグラミー賞など人種や階層を超えて、アーティスト個人が評価されているように見えた。

しかし25歳の時、シンガーを目指して米国に渡ると、その考えは揺らぎ始めた。多くの米国人から「成功したいのなら、日本人らしさを強調した方がいい」と助言されたからだ。

米国では、差別や抑圧を受けてきた人々が、あえて彼ら特有の表現を作り上げ、政治的、文化的地位を確立してきた歴史があった。「音楽は全世界的な文化でもありながら、違いを表現するものでもあった。音楽の政治性、あいまいさ、複雑さを研究したいと思うようになった」

2011年、同志社大学大学院に入学し、冷戦期、カントリー音楽がどのように日本社会に受け入れられていったのか「カントリーの越境」について研究し始めた。

博士課程3年目で、フルブライト奨学金大学院博士論文研究プログラムに合格。カントリー音楽の聖地、テネシー州ナシュビルから車で30分ほどの Middle Tennessee State University に在籍した。資料収集、関係する授業や学会に参加するかたわら、本場のカントリー歌手を訪ね、交流を深めた。

日本でも米国でも、カントリー音楽は「保守的な労働者階級の白人男性の音楽」というイメージがまだ根強い。実際、政治的な思想を理由に「カントリーだけはやりたくない」と言う人も多いという。一方、一緒に演奏すると思想の違いを超えて一体感が生まれるような場面を、シンガーとして見てきた。そんなあいまいさが、カントリーの魅力だ。

今、とりわけ注目しているのは、日本人男性がカントリーを通して語った男らしさだ。例えば、カントリーに象徴されるカウボーイを「勇敢」と好む声もあれば、「暴力的」と嫌う声もある。「音楽自体を議論しているのではなく、自分たちが好む『男性らしさ』ついて議論している。執筆中の博士論文では、カントリーを通じて音楽の様々な語られ方、とりわけジェンダーについて明らかにしたい」

The Fulbright Program was valuable because it allowed me to experience social, cultural and political issues in the U.S. on daily basis. It helped me deepen my understandings about issues in the U.S., which I learned from academic books. I feel more confident to identify myself as a scholar of American Studies for my future career.