日本語クラスの学生たちと。働きながら学ぶ人が多かったのが印象的だったという(前列左から2人目)。
フルブライトストーリー
No.5 山本大貴
日本人少ない地域で日本語教育に奮闘「自信培った」
日本の大学院で英語教育を学んでいた。修了後、学校の英語の教員になるつもりだったが、その前にもう少し英語力を向上させたいと思いが強くなった。そんな時、フルブライト語学アシスタント(FLTA)プログラムを知り、応募した。
赴任先に選んだのは、ワイオミング州のキャスパーにあるコミュニティーカレッジ、Casper College。
人口約5万人の小さな町への赴任を望んだのには理由がある。
「日本人のほとんどいない環境に、身を置きたかったんです」。大学2年の時、オレゴン州の大学に留学した。だが、日本人学生たちと一緒に行動することが多く、アメリカ人の友人もあまり作れずに帰国したという反省があった。対して、Casper College の日本人は自分1人。「自分を成長させるために思い切って決断しました」
大学では、日本語の授業を週8コマ担当した。シラバス作りから成績評価まで、授業の全てを任された。「授業計画を自分で練るのは楽しかったです。大学院で学んだ方法を取り入れることもできました。普通なら私の年齢ではできないことです」
一方、不安もたくさんあった。
日本語を教えた経験がないので、学生にとって何がどれくらい難しいのかをつかむのに苦労した。日本語の文法に関する知識もあまりない。コミュニティーカレッジなので、自分より年上の学生が多い。英語がまだ十分でなく、若い自分が引っ張っていけるだろうか。その分、毎回丁寧に授業準備をするよう心がけた。
「学生と接していて驚いたことは、日本のポップカルチャーの力でした」。授業を受ける学生の多くが、日本語に興味を持ったのは日本のアニメ、漫画、ゲームがきっかけ、と教えてくれた。「日本への経済的な魅力は徐々に薄れつつありますが、それでも多くの外国人が今も日本語学習に取り組んでいるのはポップカルチャーのおかげだと感じました」
町に住む日本人は自分も入れて数人。日本に興味を持つ人々が話しかけてきてくれた。その結果、たくさんの友人ができ、パーティーや外出をともにするなど、思い出をたくさん作ることができた。「そうした中で、英語で言い換えをしたり質問したりする能力が向上しました。その結果、自分の言いたいことが一回で伝わらなくても、最終的には分かってもらえるだろうと思えるようになって、英語を話すことへの不安が減りました」。日本に帰国後は、兵庫教育大学特命助教に就任し、中学・高校の英語教育改善を目指す研究プロジェクトに参加している。「日本人がほとんどいない厳しい環境で自分の役割を果たし、言語や文化の壁を乗り越えて多くの友人を得ることができました。Casper College で培った自信は、今後の人生の大きな支えになると思います」