現在勤務しているパリの法律事務所の中庭で。
フルブライトストーリー
No.14 羽深宏樹
ITを利用した紛争解決システムのデザインを研究、国家間紛争から人々の生活トラブルまで
グローバル化に伴い、国家間の貿易や投資、租税に関するルールの整備が進んでいる。たとえルールが整っても、いざ国と国との間で紛争が起こった場合には、容易に解決することはできない。国家間の紛争を解決する仕組みについて学びたい。
そんな思いを抱き、紛争解決システムデザインの授業がある Stanford Law School に留学した。1年間で国際経済法の修士を取得し、ニューヨーク州の司法試験に合格した。
2012年に日本で弁護士になった後、国際企業の取引、企業の合併や買収などの分野に携わってきた。3年後には金融庁に出向し、日本と EU の貿易や投資を促進するため、経済連携協定(EPA)の交渉にも関わった。国同士という大きな舞台での紛争解決に興味を持った。
それが、米国での新たな出会いにつながった。
シリコンバレーの中心部にある同大学で盛んに議論されていたのは、最新のテクノロジーを使った紛争解決だった。紛争に関する大量のデータを分析し、適切な解決策を導き出す。AI の力を借りることで、中立で公平な判断を、瞬時かつ低コストで導き出せるという発想だ。
日々の生活の中で、消費者を悩ませる小さなトラブルは日常的に起こっている。しかし、そうした小さなもめ事が裁判所に持ち込まれることはほとんどなく、被害者は泣き寝入りする。「解決にかかるコストや時間を大幅に減らすことができれば、世の中のストレスをもっと減らすことができる」。研究テーマは、『国家間の紛争』から『人々の生活トラブル』という対極の分野に広がったが、「両者は根本的に共通しているー裁判という制度では解決しづらい問題だからこそ、当事者同士がうまく歩み寄れるような仕組みが必要」と話す。
弁護士になってからは世界を舞台にしてきたが、実は「もともとドメスティックな人間だった」と笑う。
開成高校から東京大学法学部に進学。日本ではいわゆるエリートの道を歩んできた。しかし法科大学院を卒業後、ジュネーブの WTO(世界貿易機関)でインターンをした時「人生観が変わった」。
法律のみが専門の自分と違い、他国の人は複数の専門分野を持ち、英語も母国語のように操った。「国際舞台で自分は使い物にならない。25年間何をしてきたんだと愕然とした」と振り返る。
一方、国を問わず誰とでも仲良くなり、パーティーなどのイベントを進んで企画する自分もいた。「皆が楽しめる環境づくりが得意だった。国際的な場で争い事を解決するポテンシャルはあるんじゃないかと思った」
留学後の目標は、日本でもテクノロジーを駆使した紛争解決の動きを活発にすることだ。今、パリの法律事務所で研修しているが、ヨーロッパでもオンライン解決が広がり始めているという。「シリコンバレーやフルブライトで出会った友人は皆、これまでの常識に挑戦して、大胆に新しい枠組みをつくり出そうとしていた。自分もそうやって世の中を良くしていきたい」。法律家でありながら、アントレプレナーとしての使命感も胸に秘めている。
In my own words
The Fulbright experience was valuable to me because people I met were very enthusiastic in what they were pursuing, encouraging me to do what I believe regardless of any hardship.