フルブライトストーリー

No.28 菊地直己

ジャーナリズムスクールの Alexander Stille 教授の自宅。ホームパーティーに招かれ、夜遅くまでゼミの学生仲間と議論した。

アメリカの色んな姿を見てやろう——報道では伝えきれない、生のアメリカと出会って

米国滞在中は多くのデモを見に行った。特にポートランドは、普段の平穏さとは打って変わり、移民問題などをめぐって市民同士がぶつかる激しいデモもあった。
Portland State University では、地元の教会ボランティアが英語教室を開催。歴史や文化について話したり、一緒に食事をしたりして家族のように付き合った。

「フルブライターと聞いて、どんなイメージを持ちますか?」とインタビュアーにインタビューした根っからの新聞記者だ。Columbia University など2校で、アメリカの政治報道に関する研究に取り組んだ。

フルブライトを知ったのは高校生の頃、自らもフルブライターだった作家の小田実氏の著書『何でも見てやろう』がきっかけだという。「自分も将来フルブライターになるとは思いませんでしたが、海外留学への憧れはありました。学生時代は体育会系の部活が、就職後は仕事が忙しく、実際に渡航できたのはこれが初めてです」

在米中は大統領選挙後の様々な政治報道に触れ、メディアの中立性を考えさせられた。「他の学生たちと一緒に、ある州の上院議員選挙の速報を見たときのことです。深夜に至る接戦で民主党候補が当選し、その報道に学生たちが大歓声を上げたんです。アメリカ人の学生も留学生もいましたが、アメリカで記者を目指す彼らが一方的に喜ぶ姿がとても印象的でした」。複数のメディアが林立する中で、メディア全体でみれば中立でも、個々の記者には信念や伝えたい主張がある。本当の意味の中立は存在しないと、見せつけられた気がしたという。

多くの視点で学ぶため、2つの大学へ通い、市の図書館が無償で提供する英語教室にも参加した。「教室の利用者は貧しい人や移民の家族が多く、何度か強制送還されても、アメリカで暮らすことを夢見て英語を学ぼうとする人もいました。そんな彼らとの出会いを通じ、メディアでは伝えきれていないアメリカ社会の一面を見ました」

成果の多い1年だったと認めつつ、留学の本当の意味が分かるのはむしろこれからだと語る。「まだ帰国したばかりなので、日本に長く居るうちに醸成される部分もあると思います。アメリカ人以外にも、世界中に仲間ができました。彼らと一生付き合っていけるという意味では、留学は逆にこれから始まると言ってもいいくらいです。一生ものの財産を得る機会です。もし今、応募を迷われている方がいるなら、ぜひ挑戦して欲しいですね」