150人以上が参加した日本物理教育学会でインタラクティブ・レクチャー・デモンストレーションのワークショップを実施(2018年8月12日)
フルブライトストーリー
No.31 デイヴィッド・R・ソコロフ
物理学教育にあけぼのを——アクティブ・ラーニングを取り入れた授業の普及を図る
30年以上に渡って物理学教育を研究してきた、物理学者であり教育学者だ。現在も University of Oregon で物理学の Professor Emeritus として、物理学教育のための教材開発に取り組み、高校・大学の物理学教員に向けたワークショップを複数主宰している。
ソコロフ博士が他の同期フルブライターと異なるのは、自分自身の学業や研究のためというよりは、招へいを希望した受け入れ機関である新潟大学をはじめ、日本物理学会など複数の教育・研究機関の依頼を受けての来日であるという点だ。中等・高等レベルの物理学教育のためのワークショップの実演が主な目的で、アメリカで同僚らと共に開発してきたインタラクティブかつアクティブな授業のデモンストレーションに興味が集まったという。
博士によると、過去30年に渡って学生たちを見てきたが、物理現象に対する学生たちの理解は、講義を聴いたり教科書を読んだりするだけではなかなか変わらないという。そこで博士は、学生たちに様々な事象を観察させ、今現在持っている物理的な知識と、自分の観察結果を比較してみるよう勧めている。起こる現象を予測して、予測を検証することを学ばせるためだ。
「学生たちがいろいろなアイディアを持っていることは、物理学教育の研究の中で既に分かっています。彼らに必要なのは、自分のアイディアに基づいて予測を立て、その予測が必ずしも正しくない可能性があると知ることです。そうすることで、知識をアップデートできます。現実に起きる事象を観察して得られる知識を持っていてこそ、彼らは科学者として振る舞うことができるのです」
インタラクティブな授業には、学生たち自身が自分の意見や考えを共有するという姿勢が欠かせない。しかし、日本の文化では、自分の意見を積極的に発言することに慣れていなかったり、発言できなかったりする学生も少なくない。そのため、日本の教員がどのように働きかければ、学生は自分の予測を立てる際にアイディア・意見を共有し、参加意識を高められるのかを考えるようになった。
内向的に見える学生たちとは裏腹に、日本の教育現場ではアクティブ・ラーニングへの関心が高まってきている。インタラクティブな授業に関する博士の著書を日本語に翻訳し、日本の教育関係者が使えるようにしようという取り組みが進んでいる。
受け入れ機関の担当者達が日程調整に配慮してくれたおかげで、4つの機関で多数のワークショップを実演する多忙なスケジュールの合間を縫って、各機関の研究者たちと交流する時間を持つこともできた。各訪問先で少なくとも1回は研究者同士で夕食を共にする機会があり、物理学や物理学教育に限らず、様々な話題で会話を楽しんだ。「日本の同僚たちとお互いの文化について話し合ったことは、研究の議論を除くと、一番貴重な経験だったと思います。堅苦しくない環境で、人と会い、色々な議論をすることは、何よりも楽しいことです。私が日本文化を知ることができたというだけでなく、アメリカ文化の一端を彼らに知ってもらう機会にもなりました。お互いを理解するためには、直接話すのが一番だと思います」
こうした有意義な交流のお陰で、フルブライターとしての体験は、ソコロフ博士に非常に良い印象を残した。「アメリカとは異なる文化の中でも働けるという自信をより強く持てるようになりました。フルブライターとして訪れたそれぞれの場所で、現地の方々がとても協力的で、友好的に接してくださったことも大きいと思います。その場所で働くことに何の心配も不安もいらなかったからです」
フルブライターとして、将来の候補者たちにはこう助言する。「フルブライト スペシャリスト プログラムは、自分の専門知識を共有することで、相手国の様々な方々と交流することができる格好の機会です。たくさんの方に是非応募して欲しいですね」