フルブライトストーリー

No.34 廣野美和

Kennedy School にて

国際秩序の原点に立ち戻る——研究の幅と深みを増すことができた8ヶ月

息子と国連を見学し、国連安全保障理事会の場での写真です。
マサチューセッツ州フルブライト・アソシエーションが企画したプログラムに参加した時の写真です。Edward M Kennedy Institute で、上院議員になったつもりで議会に臨みました。

オーストラリア国立大学で国際関係学博士号を取得後、英国の University of Nottingham にて英国研究理事会研究員に着任。中国国際関係を専門とし英国政府に助言した経験も持つ。英国やオーストラリアで行われている研究に対する馴染みはあったが、アメリカ現地で研究に携わったことはなかった。「ここ10年、中国の国際責任について研究を進めてきました。国際責任の定義について米中には大きな隔たりがあります。アメリカでは人権や民主主義を重視すべきという議論になりますが、中国からすると、それらは価値の押し付けであり無責任なもの、経済発展こそが大国の果たす責任であるという捉え方になります」。実体験としてアメリカの視点を理解したいと考え、フルブライトに応募を決めた。

Harvard University を留学先に選んだ理由は2つある。1つは中国に関する研究が世界のトップレベルであること。もう1つは、Harvard University の Ash Center for Democratic Government and Innovation の Arnold M. Howitt 顧問と彼が取り組む防災および災害復興に関する研究の存在だ。中国国際研究と並行して災害や人道支援における効果的なローカライゼーションをテーマにプロジェクトを進め、その分析の枠組みを打ち立てた。

研究の傍ら Harvard Kennedy School の授業の聴講にも意欲を傾けた。大きな刺激を受けたのは、元アメリカ合衆国国際連合大使である Samantha Power 教授の授業だ。「人権と民主主義について、原点に立ち戻って考えることができました。これらは『価値の押し付け』論では決して片づけられない、人類にとって必要不可欠な根本的な考え方であり、その研究に最前線で取り組まれている方から直接学べたことは、何物にも代えがたい財産になりました」

研究員プログラムについて「他の研究者と交流を深める中で、想像のはるか上をいくような新たな問題意識が生まれました。何かしらの化学反応が起こる可能性が非常に高いので、ぜひおすすめしたい」と振り返る。

帰国後は、以前より教鞭をとる立命館大学に戻り、Harvard University で行った共同研究の報告書や自著の執筆に携わる。国外での活動にも引き続き取り組む予定だ。中国のPKO活動と人道支援の足跡を追い、国際関係論で軽視されがちな発展途上国の視点から、中国の国際責任を考えていく。