フルブライトストーリー

No.35 北田佳子

ヨセミテ国立公園の自然の美しさと雄大さに圧倒される

日本発祥の授業研究とアメリカで発展したレッスンスタディ——実体験をもって日米の架け橋に

ホームステイをさせて頂いていた Dr. Catherine Lewis と彼女の素晴らしいご家族とともに
Reach Institute の素晴らしい同僚たちとコロナ禍でもオンラインで支え合って

「私の意見はこのように違う」と言われたのは、カリフォルニア州サンフランシスコ市周辺のベイエリアにある小学校を視察後、その小学校の教師を対象に Lesson Study を行った時だった。派遣先の教師教育機関 Reach Institute for School Leadership が支援している学校やそうでない学校も視察した。しかし、どの学校においても異なる意見から活発な議論が繰り拡げられ、日本人との考え方や文化の違いを肌で感じた。「視野が拡がる実体験をした」と話す。

同僚からフルブライト スカラー イン レジデンス(FSIR)プログラムの紹介を受け、この機関が日米教育委員会を通して Lesson Study について講義ができる研究者を探していると知った。Lesson Study を日本では「授業研究」と呼び、自身の専門分野である。

授業研究は明治時代に日本で始まった教育手法で、教師が他の教師の授業を研究し自らの教授法に活かすというものだ。アメリカで広まったのは、アメリカの学者が約20年前に日本の授業研究を著書で紹介したのがはじまりだ。日本では一般的だが、アメリカではこれからの分野であり、近年、アメリカならではの形で発展し始めている。アメリカでは互いの考えが違えば議論する土壌があり、実りある議論に向け準備を怠らない。批判や質問に躊躇しない。

派遣先が Lesson Study に積極的なのは、貧困層の子ども達を指導する教師の質を高め、貧困の連鎖を断ち切ろうという目標があるからだ。日本でも社会の多様化や格差に伴い、生徒のサポートに戸惑う教師を目の当たりにした。「今回の体験で、アメリカで発展した Lesson Study を日本に持ち帰る必要性を強く感じました」

多くの小中学校の授業を視察し、助言指導に加え、この分野を深く学べる新プログラムを企画開発した。「国も文化も違うので、日米の教師や学校の違いは多くありますが、教師の生の声を聞くと共通した問題を抱えていることも散見されます。将来、日米の教師教育の発展に貢献できる、と確信しました」

留学は新しい視点や経験を与えてくれ、体験してこそ実感・確信できることがある。「是非チャレンジして日米の架け橋になって欲しい」。もちろん自らも架け橋であり続けるつもりだ。