フルブライトストーリー

No.39 伊東啓太郎

ゲインズビルの湖に生息する Bald Cypress (Taxodium distichum) の森。湿地に適応した生態を観察することができ、水面に「気根」が見られる。降水量や時間帯によってその表情が豊かに変化し、ぶら下がったスパニッシュモスとともに特徴的なランドスケープを形成している。

環境デザインで自然と人をつなぐ——コロナ禍でのグリーンインフラ研究

ゲインズビル近郊の Silver springs のランドスケープ。天気が良い日には、鮮やかなブルーとなる。生物多様性の宝庫。

これまで国の施設や地域の河川、都市公園、小学校校庭などの自然再生デザインと幅広く携わってきた。都市・地域の自然の摂理に沿った環境デザイン、森林などの自然環境保全、自然再生のあり方について、研究と設計を実践してきた。

「ワークショップや会議などで University of Florida (UF) を訪問し、地域や大学の人々、豊かな自然環境に魅力を感じていました」。フルブライターでもある同大学の友人から共同研究の誘いを受け、フルブライト・プログラムに応募した。「このプログラムは、研究だけではなく、文化や人との交流も勧めています。また、さまざまな民族音楽、特に南部のブルースミュージックが好きで、その源流も見てみたいと思っていました」

ところが、新型コロナウイルスの影響で、予定していた学生との実習や講義はできなくなった。また、プロジェクトの一つであるゲインズビルにある小中高一貫校の校庭設計やワークショップは延期を余儀なくされた。大学も室内に入れないため、同僚との打ち合わせなどは、アウトドアで行うこととなった。

さまざまな面で制限がある日々だが「アウトドア」という選択肢がある。屋外に椅子を持ち出し、週3~4回打ち合わせをしている。一日の天気の変化を肌で感じながら、話は多岐にわたり数時間にも及ぶ。「友人や他分野の教授たちとの会話は本当に面白く、大きな刺激となっています。これからの研究の枠組みを含め新たに考える貴重な機会。深くゆったりと対話を重ねていく時間は、とても大切だと改めて感じています」

自転車を手に入れて、同僚と市街地、都市の森や公園へと出掛け、洪水防止や生物多様性保全を考えたグリーンインフラの調査を行っている。「この10年の忙しすぎた生活では考えられないような細かいところまで、街や自然の姿を観察することができています。ともすれば、危険生物として扱われる野生の Alligator(ワニ)。ここでは、みんなワニを Gator と呼んでいて、少し怖いような不思議な友人のような関係。UF のシンボルにもなっていて、近くこの良い感じの共生のことも文章にまとめたいと思っています」

コロナ禍による想定外の事態や制限だが、だからこそ築けた濃密な人間関係や視界に入ってきた景色がある。仲間からの刺激や豊かな自然環境は、研究を後押ししてくれる。そのおかげで、この春 Springer 社から Urban Biodiversity and Ecological Design for Sustainable Cities を出版することができた。「自然と人間が共生できるランドスケープデザインや生態系のありかた。自然は放置していても、人が手を入れすぎてもいけない。非日常のなかで非日常を過ごすという今までに体験したことのない1年。この大変な状況のなかでサポートしていただいた日米教育委員会の方々をはじめ、IIE、UF、九州工業大学のみなさん、友人のみんなに本当に感謝しています」。彼は、楽器と声で音を紡ぐように、目標実現へと着実に前進し続けている。