フルブライトストーリー

No.41 八木隆一郎

最終講義終了後、クラスメイトと。コースを通じてマスク着用が必須であった。

公衆衛生に貢献するための鍵——明確な問題意識が作り上げるロードマップ

コロナが小康状態の時には旅行も楽しむことができた

留学という選択肢は、以前から頭にあった。「医学部生のときにニューヨークで1か月間、病院実習をしました。素晴らしい経験だったので、いずれまた海外で学びたいと思っていました」

循環器内科医として経験を積む中で、循環器疾患の予防アプローチに問題意識を持ち、海外の公衆衛生大学院で研究に必要な最新の疫学や生物統計学を学ぶことを決意した。留学準備を進める中で、フルブライト・プログラムへの応募資格があることを知る。「素晴らしいフルブライターの先輩方が大勢いらっしゃることを知っていました」。勤務先の病院を退職し、トップクラスの研究が可能な Harvard School of Public Health へ進学した。

留学中は、ディープラーニングの技術を使って心電図を解析し、心臓の状態を詳しくかつ簡単に診断する方法を研究した。「許可を受けた研究者は、関連病院の電子カルテのデータほぼすべてを研究に利用可能です。これは日本では考えられないこと。非常に恵まれた環境です」

一方、新型コロナウイルス感染症の影響も受けた。留学期間の前半は、日本からオンライン授業。後半は渡米できたものの、対面の授業は週1回だけだった。「とはいえ、週1回だけでも貴重な体験でした。対面授業は留学生向けのもので、世界中から学生が集まっており、国際色豊かな環境で学ぶことができました」

今も渡航に制限のある状況が続き、留学のハードルは高い。そんな中で留学を希望する人に対しては、「高いハードルを越えてでも取り組みたいと思えるような、自分なりの問題意識を持つことが大切だと思います」とアドバイスする。

取り組んでいる研究を形にしてから帰国するつもりだ。「電子カルテを基盤とした大規模データベースを使った研究で成果を出し、日本にもデータベース整備の有用性を伝えられたらと、今回の留学を経て考えるようになりました。このような研究環境の発展は、必ず患者さんの利益につながると信じています」。留学が、確実に視野を広げてくれた。