フルブライトストーリー

No.43 エレン・マッキニー

京都にある工房「絵絞り庵」で、辻が花染めを娘のマドレーヌと体験しました。

伝統を身近なものに——伝統的なテキスタイルの技法を次世代へ

明治神宮にて。明治神宮ミュージアムでは、明治天皇と昭憲皇太后が使用した、あるいはゆかりのある品々が展示されてあり、織物や衣服も数点含まれています。
辻が花職人の福村健さんご夫妻は、ワークショップの講師を務めています。福村さんご自身が手描きで染めた着物と一緒に写っています。福村さんの父親も辻が花職人です。

エレン・マッキニー博士はファッションデザインを専門とし、異文化がデザインに与える影響や機能的で創造的なデザインをテーマに研究を行っている。現在は、Iowa State University of Science and Technology で Associate Professor を務める。フルブライト・スカラー(学者)として、自身が情熱を傾けるアパレルデザインについて、日本でより深く探求する機会を得た。

フルブライト・プログラムのことは、大学のイベントで知ったという。「以前から、文化が服飾とテキスタイル(織物や織り方、生地、柄などのことを指す)にどのような影響を与えるのか、非常に興味がありました。自分と同じ興味や関心を持つ他の国の人たちと関係を築くことができるフルブライト・プログラムは、研究テーマとピッタリ合うものでした」

「(日本のテキスタイルは)細部の技巧が完璧ですね。ひとつひとつのステップが考え抜かれています」、と惜しみない称賛を送る。日本の歴史や文化においてテキスタイルは重要な位置を占めているが、この伝統的な織物業は姿を消しつつある。つまり、伝統文化だけでなく、これまで織物業に携わってきた人たちの生活も危機に瀕していることを意味する。この伝統工芸を危機から救うため、アパレルデザイナーたちは、伝統的なテキスタイルを現代のアパレルに取り入れようと試みている。この伝統からモダンへの応用に強い関心を抱いた。この革新的なアイデアを学ぶことで、同様の手法を世界各地で取り入れ、日本の織物と同様に危機に瀕している伝統的な技巧を救うことができないだろうか、と考えた。来日後、日本での共同研究者である文化学院大学の渡邉裕子教授とともに、日本の伝統的な織物やデザインをモダンな衣服や小物に実際に応用している Arlnata、YAMMA、Ay、Mint Designs、Ruri W といったアパレル会社のデザイナーにインタビューを行った。

フルブライト・プログラムに応募し、日本のアパレルデザイン教育を牽引する文化学院大学で研究ができることが決まった時、とても興奮したという。アメリカに帰国した現在でも、文化学院大学がもつ最先端の技術や充実した施設を思い起こしては、今も胸を熱くしている。「著名な文化学院大学で研究できただけでも素晴らしい経験なのに、それに加えて、文化学院大学の指導方法やアパレル業界でのキャリアに向けた教育内容などを観察できたことは、本当に貴重な経験でした」

文化学院大学の仲介で、文化・ファッションテキスタイル研究所の見学も行うことができた。文化・ファッションテキスタイル研究所は文化学院大学の学生などがテキスタイルを学ぶ施設で、産学連携にも熱心に取り組んでいる。テキスタイル分野でのこうした産学連携は大きな驚きだった。また、大学で定期的に行われるイベントも、自身のデザイナーとしての情熱をかきたてるものだった。「Yohji Yamamoto(デザイナー山本耀司氏によるブランド)と密接に仕事をされていた方の講演をお聞きする機会がありました。彼のキャリアやデザイン哲学を聞けて感動しました」

日本滞在中はさらに足を延ばし、沖縄の芭蕉布の工房や琉球絣の工房を訪れるほか、城間びんがた工房にも赴いた。城間びんがた工房では、びんがた染めの工程を見学した。「普段はびんがた染めの全工程を見学できませんので、稀有な経験でした」。京都では辻が花染めの技法を学び、北海道ではアイヌ文化と彼らの伝統的なテキスタイルの技法やその技法を再生する試みについて学んだ。日本の職人たちが喜んで工芸品を紹介してくれた姿を懐かしく思いだす。「人に対して親切な姿勢は、日本の文化を物語っていますね」

アメリカに帰国してからは、日本で渡邉教授とともに集めたデータの分析と結果を論文として発表する準備に取り掛かっている。日本で学んだことをどのように授業に取り入れているかについても、説明してくれた。「帰国して最初に行ったプロジェクトは、アイヌ文化について学び、彼らの文化を衣服でどう表現できるか、というものでした」。また、京都で学んだ技法や着物の再利用などのプロジェクトも考えている。「日本には誰も着なくなった着物がたくさん眠っています。持続可能性やゼロ廃棄物も研究テーマですので、着物の再利用に関しても今後取り組みたい課題です」。さらに、文化学院大学との将来的なコラボレーションも検討しているという。

フルブライト・プログラムへの応募を考えている研究者へのアドバイスはシンプル且つ明確だ。「ぜひ応募してみてください。人生最高の経験になりますよ」。フルブライトが開催するセッションに参加し、フルブライト経験を持つ研究者と直接話し、その方々の経験から学ぶことも勧めた。