共立女子大学にて私が担当した授業「アメリカ女性史」の生徒たちと。
フルブライトストーリー
No.44 ブライアン・ダーク
日本での経験がもたらした学術と精神性への変化
アメリカ史、なかでも法制史と憲法史を専門とするブライアン・ダーク博士は、Anderson University の Department of History and Political Science で Professor として教鞭をとる。主にアメリカの南北戦争時代に関する書籍を何冊も上梓してきた。
大の剣道ファンであり、2018年に日本を訪れて以来、日本に対して興味を持ち続けていたという。「2018年に日本から帰国するやいなや、またすぐに日本に戻りたくなりました」。米国で教鞭をとって24年経ち、これまでとは違う環境に自分をおいてみたい、という気持ちもあった。教育者として、研究者として、さらには人として、より一層成長したいという気持ちが芽生えていた。「教育者は、学生の手本となるよう、生き方で示さないといけません」
そこで自身を示すべく、フルブライト・プログラムについて調べたところ、偶然にも日本でアメリカ史を教える、という機会を見つけた。時間をかけて日本の学生や大学のニーズを調査し、フルブライト経験を持つ人からはアドバイスをもらい、応募条件を満たす出願書類を書き上げた。
いくつかあった科目の中から、今回の選択に至った理由をこう説明する。「アメリカの歴史にあまり親しみがない学生に対してアメリカ史を教えてみたいと思いました。これまでとは異なる属性を持つ学生に、と思ったのが動機です」。法律や憲法の歴史を専門としているため、授業にもこうした視点を組み込んだ。ナショナリズムが、ナショナル・アイデンティティ(国民としての自己認識)の確立に果たす役割についての講義を行った。「日本人であるということが何を意味するのか。これは日本でも長く問われてきました」。ナショナリズムのテーマに加え、多くの日本人学生がアメリカの移民について興味を持っていると事前調査で知っていたので、アメリカにおける移民の歴史についても講義を行った。日本で教えた経験は楽しいものだったと振り返る。「素晴らしい学生たちに恵まれました。本当に最高の若者たちでした」。日本で出会ったすべての人から受けた温かいおもてなしにも感動したという。
日本滞在中、大学で教鞭をとるほか、各地へ旅行して様々な経験を積み重ねた。「東京大学の学生はとても親切で、休みの日に私に付き合って江戸東京博物館や皇居の庭園めぐりなど、東京のいろいろな場所を見せてくれました」。なかでも、奈良県で大峰山に登った時のことが、特に心に残っているという。「大峰山の山頂から見た沈む太陽と眼下に広がる雲に、深く心が動かされました」。こうした経験を経てアメリカに帰国した。もはや日本に発つ前と同じ人物ではなかった。
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日本での経験が自分に与えた影響を振り返り、詩人T.S.エリオット(T.S. Eliot)の作品の一部を引用した。
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We shall not cease from exploration(我々は探求をやめてはいけない)
And the end of all our exploring(すべての探求の終わりは)
Will be to arrive where we started(出発地点に到着する)
And know the place for the first time.(そして、初めてその場所を理解する)
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和訳は、日米教育委員会によるものです
この名言が日本での経験をすべて表しているという。帰国後は、ささやかだが物事の見方や教え方に変化が出てきた。「白人でないアメリカ人の気持ちが以前にもまして分かるようになりました」。共感力と傾聴力が高まったことに加え、より忍耐強く指導できるようになったという。「日本にいる間、たくさん観察し、話にしっかりと耳を傾けていたからだと思います」
フルブライト奨学金制度を検討している研究者へのアドバイスとして、準備の大切さを説く。「事前にリサーチをしっかりして、自分のニーズ以上に受け入れ先の国が何を求めているのかよく理解してください。そうすることで、チャンスが高まるはずです」