箱根近辺にある金時山の山頂から富士山を望む。 天気に恵まれ、素晴らしい登山ができました。
フルブライトストーリー
No.48 スティーブン・アルバート
日本の介護システムに学ぶ——公衆衛生の改善を目指して
スティーブン・アルバート教授は、University of Pittsburgh の School of Public Health にて学科長を10年間務めた経験があるベテランである。今回、長年のキャリアの中で初めてサバティカルを取得し、フルブライト・プログラムで来日することを決めた。「いつもと違うものを見て、新風を取り入れたいと思ったのです」
医学と公衆衛生を中心に研究を行っているアルバート教授は、この領域の大きな課題である「薬剤処方削減」に関心を持っている。薬剤処方削減とは、特に高齢者において、不要な薬剤を合理的に減らすプロセスのことだ。フルブライターとして来日後には聖マリアンナ医科大学の同僚にもなった日本の友人と議論を重ね、「高齢者のフレイル予防の機会:『超高齢化』社会に学ぶ」というテーマで研究プロジェクトを提案した。
実は、1980年代に博士号取得前の学生だった頃、アルバート教授はフルブライト・プログラムでパプアニューギニアを訪れ、フィールドワークを行ったことがある。そして約30年後の2021年、今度は日本を訪問先として選び、講師・研究員プログラムのフルブライターとなり、日米の介護に関する比較研究を実施した。慢性疾患や障害のある人々のための介護施設について、「この領域で日本の政策は非常に進んでいます。日本から学べることがあると思います」と話す。
アルバート教授は、公衆衛生と高齢化に対する日本の取り組みを称賛する。高齢者を含めた国民の生活の質を改善する「介護保険」と「国民皆保険」はその好例だ。
日本滞在中の5か月間は、クリニックで提供されるプライマリ・ケアを見学し、疾患や障がいのある人々の自宅を訪問し、日本の介護支援に関する予備研究を行った。また、受入先である聖マリアンナ医科大学だけでなく日本中の老年学・老年医学の教員と議論や共同研究を行い、現在の介護保険制度について話し合った。「いずれ日本に戻ってこういった分野での研究を進めたいですね」
アルバート教授によると「上手に年を重ねている」国では、平均寿命が長く、治療をタイムリーに受けられ、疾患への罹患率が低いのだという。「日本は、高齢者に何が有効なのかを知るための本当に良いモデルです」 。国のインフラ次第で視点が大きく異なる可能性があることにも気づいたという。例えば、アメリカの学生は高齢者の基準を65歳と答えたが、日本の学生は75歳と答えた。
日本滞在期間は短かったものの、アルバート教授は妻と最大限に楽しんだ。留学生とともに日本語の授業を受けたほか、京都、日光、箱根、函館、日本アルプスを旅した。美しい桜や紫陽花、蓮の花が咲き誇る姿など、季節の移り変わりを堪能した。自然の美や文化遺産、エチケットの違いを思い出に帰国し、今は日本食を作りたいと思っている。
アルバート教授は、他の研究者たちに文化的にも学術的にも素晴らしい経験を得られるフルブライト・プログラムへの応募を勧める。「まずは、教えたいのか研究をしたいのか、はっきりさせると良いでしょう。選択次第で、フルブライト経験が大きく変わるからです」とアドバイスを加えた。