フルブライトストーリー

No.51 クラウディア・オレンスタイン

阿波人形浄瑠璃を研究・保存・収集されている辻本一英さんと月1回放映されるテレビ番組を撮影(阿波人形浄瑠璃に関するエピソード)。
辻本さんの人形コレクションは、彼が館長を務める「人形のムラ」で展示されている。2021年11月 徳島県。

存続の危ぶまれる伝統芸能、日本の人形浄瑠璃の今を探求する

地歌舞伎「相生座」の花道で見得に挑戦。小野崎隆賢さんおよびJETプログラム国際交流員のユダ・ホフマンさんのおかげで実現。2021年10月 岐阜県瑞浪市。
えびす人形を抱えているマーティン・ホルマン教授(人形芝居「徳米座(とくべいざ)」の座長)や他の座員たちと上演。2021年10月 石川県白山市。

クラウディア・オレンスタイン博士は、Hunter College and the Graduate Center, City University of New York で演劇の Professor を務めており、アジアの演劇を専門としている。この10年は特に人形浄瑠璃の研究に力を入れており、数冊の共編著を出している。

フルブライト・プログラムでの研究テーマは、日本の人形浄瑠璃。過去に日本の伝統的な人形浄瑠璃に関わったことがあったため、現状を調査したいと考えたのだ。「こうした伝統的な芝居は、常に存続が危ぶまれるような状況にあります。実際のところ、日本の人形浄瑠璃は今どうなっているのか知りたいと思いました」

日本では、上智大学比較文化研究所に所属した。「2021年の夏、ちょうど新型コロナウイルスの感染者が急増していたタイミングで来日したので、日本にいるのが不思議でした」。隔離期間中は、フルブライター同士がスカイプでつながることができた。対面での交流は限られたものの、フルブライター間のコミュニティー意識はありがたいものだった。「フルブライターを何人も知っていますが、学者や芸術家が集う本物のコミュニティーで、すごく刺激的です!他のフルブライターたちの経歴や多様な研究プロジェクトについて知ることができて、とても良かったです」

新型コロナウイルス感染症の影響を受けたものの、日本国内を旅して、儀礼や演劇を見学する機会も得た。石川、岐阜、徳島、青森、秋田などでは、特に濃密な時間を過ごした。「いつも図書館にて研究するのではなくて、とても実践的でした」と、北日本へ訪問した時のことを振り返って話す。現地の住民たちの親身な協力に支えられ、各地の伝統的な人形浄瑠璃についてさらに学びを深められたという。「どの場所にも思い出がたくさんあり、助けていただいた方々とのエピソードは数えきれません」

フルブライト・プログラムは柔軟性が高く、計画にはなかったチャンスをつかむことができた。「『お金を渡しますので、あなたが必要だと思う研究をしてきてください』など、こんな奨学金を得たことは今まで一度もありませんでした。このような形で支援してもらえると、教授として、研究者として、そして人間としても認められたように感じます」。人形浄瑠璃の研究と並行して、青森にある真言宗の寺院を含む、博物館や寺院を訪問し、日本の現代演劇も観た。

研究員プログラムを順調に終えたオレンスタイン博士は、自身の経験について執筆することを楽しみにしている。一部の研究は、インドネシア・バリで開催される UNIMA/ウニマ(L’Union Internationale de la Marionnette /国際人形劇連盟)Council Meeting で発表するつもりだ。Ballard Museum and Institute of Puppetry のオンライン・イベントも企画しているほか、人形劇や仮面などの芸術を専門とし、オープンアクセスで利用できる査読付きのオンラインジャーナル 「Puppetry International Research」 の編集にも携わる予定だ。「自分の研究だけに取り組むのではなく、交流が深まる場を設けたり日本の研究者が自身の研究や資料を発表する機会を作れていることを嬉しく思います」と語る。

これからフルブライト奨学金に応募する人へ、こうアドバイスする。「仮にすべてがうまくいくかどうかわからなくても、明確なビジョンを持って始めてみることです」