フルブライトストーリー

No.54 中地幸

ハワイ島に住む友人たちとピクニック

海外で自分の知識を使って貢献したい——アメリカの多様な文化を吸収し、人々との交流を広げる

黒人大学Central State Universityでの講義(2009年)
ハワイ島ハイキング

「ただ学ぶだけではなく自分の文化的知識も生かして、アメリカのアカデミズムに貢献できるような研究をしたい」。20世紀アメリカのモダニズム文学を研究する中で、俳句や浮世絵など日本文化がどのようにアメリカで受容されてきたのかに興味を持つようになった。大学の教員をしながらサバティカルを利用して2009年度に半年間、2022年度には3カ月間と、2度フルブライト研究員として留学を経験した。

「1度目は New York University と University of California, Berkeley に3カ月ずつ行き、それぞれで違う知見を得られました。アメリカ中西部での留学経験があったので、そことは違う地域を見てみたいという希望も叶いました」。Fulbright Outreach Lecturing Fund(OLF)を利用し、歴史的黒人大学(HBCU)で講義も経験した。「1920年代のアフリカ系アメリカ人作家の研究を通して、多くのアフリカ系アメリカ人リーダーを輩出したHBCUに興味がありました。授業でそこの学生たちとの触れ合いができたのは、大きな成果でした」

今回2度目の留学では、「20世紀転換期のアメリカの浮世絵詩」の研究のために University of Hawaii, Manoa に滞在。「この大学のアメリカ研究学部の吉原真里先生の本に影響を受けたのが主な理由です。アメリカの様々な文化を包括的に理解するためにも、今回はハワイという地域を選びました」。ハワイの伝統文化や日系人に関しても多くの興味が湧いた。「ハワイでは言葉が、英語に加えてハワイ語で表記されていることが多いんです。そのことから、地元の人々はポリネシアのアイデンティティを強く持っていると感じました」。留学中、ホクレアという古代ポリネシアの伝統航海カヌーのことを知り、その船に乗って移住してきたハワイアンのルーツも調べた。「エスニック・マイノリティ文学の研究をしてきましたが、これまでポリネシア文化にはあまり目配りができていなかったと気がつきました」

帰国後は研究成果を本にまとめるとともに、学生達にフルブライターとしての経験を伝えている。「戦争や紛争が起こっている時代だからこそ、個々人がどうやって海外の人々と繋がっていくのか、そして互いの文化を受け入れていくのか。留学先で人と交流することでこそ学べるので、若い人達にも経験してほしいと思います」