フルブライトストーリー

No.57 白川透

University of California, Berkeley の指導教授と大学院生たちと。議論の後にベイエリアに面するオフィスにて。

自由な空気が生む研究のアイデア——議論の輪から交流が横に広がる

各国のフルブライターと University of Oregon の Pre-Academic Program にて。
午前5時40分。オリエンテーションの行われたオレゴン州ユージーン市は少年たちの友情を描いたアメリカの青春映画「スタンド・バイ・ミー」のロケ地でもある。線路の上を歩く少年たちのようだと話しながら、小旅行へ出発した。

純粋数学を専攻した後に、より直接的に現実社会に貢献したいと考え、医学の道に進んだ。「医学部と大学院の MD-PhD コース(MD研究者育成プログラム)の恩師がフルブライターだったことが、今回の留学につながりました」。米国の、データに基づく医学研究は進んでいて、指導教授もそういった研究で評価を受けてきた。「研究室の先輩もフルブライターで、彼らの考え方が素敵だと感じ、自分も同じ道を辿りたいと思いました」

数学とITの知識を活用し、『理論とデータに基づいた健康長寿のための最適な生活習慣病の管理戦略』を研究テーマとした。フルブライト奨学金の特典である、University of Oregon での1カ月オリエンテーションを受け、よいスタートを切ることができた。社会的な文脈における英語やアメリカ文化と価値観、大学のリソースの利用法も学んだ。「他国の学生達と一緒にホームステイをして仲良くなりました。仲間の1人の祖父もフルブライターだったそうです」

University of California, Berkeley に到着するとすぐに、指導教授の週5日の講義が始まった。講義のグループワークが研究プロジェクトへと発展した。「面白い議論をしているという口コミから、隣の研究室や他学部、そして東海岸、海外へと共同研究の環が広がっていきました」。西海岸の温暖で快適な気候が、自由でアカデミックな雰囲気を育んでいると感じた。「毎日いいアイデアが生まれそうな、ポジティブな気持ちで過ごせるんですよね。University of California, San Francisco の医学部の教授にも指導を仰いだことで、理想としていた研究の実現にも近づくことができました」

帰国後も留学先の友人や研究者との交流は続く。留学中はコロナの影響や物価高騰などもあったが、それ以上に大きな恩恵を感じたという。「アメリカの最先端の研究は、日本から見ると手が届かないように感じていましたが、実際に試行錯誤の現場を見ていると、自分にもできそうな気持ちになります」。今後も医師・研究者として、日米共同での論文を発表して、公衆衛生の向上に役立てたい。それがフルブライト奨学金の趣旨である“世界平和の実現”につながると確信している。