ハーバードで親友になったチリ人の研究者アレックスとランチ
フルブライトストーリー
No.58 松尾一郎
ウクライナ研究に取り組む日々——米国で広い人脈を築き、国際関係の問題に挑む
「温室効果ガス削減と核軍縮と新技術」の研究で留学し、帰国後、さらにウクライナの研究に発展させたという。「1991年のソ連崩壊後、ウクライナに残された核兵器をどうするか、は世界規模の課題でした。それをCO2削減のために原発の燃料として利用・廃棄できないかということを研究テーマにしていました」
新聞社の仕事で忙しいなか留学準備を進め、家族を伴っての留学のため、行き先を比較的治安のいいボストンの Harvard University と決めた。「研究のために、ワシントンでの資料請求やインタビューが必要で、車で片道7時間の距離を何度か往復しました」。また Princeton University の核兵器の不拡散や軍縮の研究で有名なフランク・フォンヒッペル教授へのアプローチなど、フルブライトの知名度を生かした研究活動を行った。「この研究において第一線で活躍する Massachusetts Institute of Technology のリチャード・J・サミュエルズ教授など、多くの方々と知り合えました。Harvard University では、公共政策で有名な(Harvard)Kennedy School 国際関係論のセミナーに参加し、各国の高官といった留学生たちとの交流も有益でした」
帰国後、自身も大きく変わった。「物事を引いて見ることができるようになりました。会社では時間に追われて細かい事柄までフォローできず、焦りがちの日々でした。そこから解放されたことで、広い視野でじっくり問題に取り組むことができました」。また自身の人脈が、自身が勤める会社への貢献にも繋がる。「帰国後、毎年行う核軍縮のシンポジウムに、かつての取材相手で留学中に仲良くなった Johns Hopkins University の教授で、コスタリカの元外務次官であるエレイン・ホワイトさんをスピーカーとしてお招きできました」。他にも、留学中に得た人脈から、 Harvard University の Ukrainian Research Institute の所長で歴史家のセルヒー・プロヒー教授のインタビュー記事を数本だした。
現在はロシアのウクライナ侵攻問題に重きを置き、ロシア語に加えて、ウクライナ語も学んでいる。「私の研究はCO2を減らすという地球温暖化対策から始まりましたが、これからはウクライナ側からの視点で、新たな研究テーマに取り組みたいと考えています」