フルブライトストーリー

No.59 古家士朗

University of Wisconsin-Madison の先輩に招待されて香港で講演している時の一幕

戦略的なキャリア形成で未来を拓く——研究者への扉を開いたフルブライト留学

キャンパス内でアカデミックガウンを着て。
現在の所属であるハーバードの人口学研究所は今年60周年を迎える。

学部卒で企業に就職し、システムエンジニアとして働いていたが、博士号を取得するという覚悟を胸に、博士課程進学を決意した。もともと、遺伝子データの社会科学研究への応用に関心があり、分野を超えた共同研究が盛んに行われている米国に留学したいと考えた。

数ある奨学金の中からフルブライトを選んだ背景には、過去に米国大学院出願で不合格通知を受け取った苦い経験があった。「大学院出願の際、獲得した奨学金を入力する欄があったのですが、表示された選択肢から選ぶ形式で、その中にフルブライトがありました。獲得できれば自分の能力の担保になり、選考でもプラスに働くかもしれないと考え、応募を決めました」

渡米後、留学先に米国を選んだことは正解だったと確信した。学際的な研究を学会や国際的な学術雑誌で発表していく中で、着実にキャリアの幅が広がっていく手応えを感じた。「自分が専門としている分野の研究者が集まる地に身を置くことで、米国以外にもネットワークが広がりました。たとえば最近、英国のデータが必要になったので London School of Economics (LSE) の研究者に相談したところ、その方がすでに僕の論文を読んでくれていたおかげでスムーズに話が進みました」

しかし、米国でのキャリアを継続していく上では課題もあった。フルブライト・プログラム参加後の2年間の自国滞在義務だ。「将来の可能性を広げるためにも、米国でのキャリアを断絶させたくないという思いがありました。なので、最終的に留学先の大学に在籍したまま帰国し、2年間リモートで研究するという形で義務をクリアしました」

博士号取得後、米国 Harvard University と Purdue University で研究を続けている。「研究者として生きていくことは大変なことも多く、生半可な気持ちで進むことはお勧めできません。しかし、茨の道でも行くという覚悟のある方にとっては、フルブライトはその扉を開くきっかけになるのではないでしょうか」