
大阪大学の正門の前にて
フルブライトストーリー
大阪大学の正門の前にて
原文は英語です
North Carolina State University で Associate Professor として教鞭をとるチャールズ・スミス博士は、統計学および統計学を応用したバイオマスマティクスを専門としている。スミス博士は2023年、フルブライターとして来日し、大阪大学で研究を行なった。日本で研究したいというスミス博士の長年の希望は現実のものとなり、研究だけでなく文化的な側面でも忘れ難い経験となった。
しかし、フルブライト奨学金獲得までの道のりは平坦ではなかった。所属大学のセミナーでフルブライトの存在を知ったあと、生命科学分野の同僚からその詳細を訊き、応募を決めた。2回連続で選考から外れてしまったが、スミス博士は諦めず、新型コロナウイルス感染症パンデミックの混乱の中、翌年も自分を信じて応募した。ついに「三度目の正直」で念願が叶い、2023年9月から2024年2月までの6カ月間の講師・研究員プログラムで来日した。
日本での所属先である大阪大学では、人間の歩行と姿勢の傾きについてのバイオダイナミクスの研究を行なった。スマートフォンの仕様が人間の歩行パターンに与える影響、疾患や年齢が姿勢制御に与える影響などについて調べた。こうした一連の研究成果は Scientific Reports 誌に論文が採択され、フロリダ州のオーランドで開催された国際会議 the IEEE EMBS での発表として結実した (IEEE EMBS: the Institute of Electrical and Electronics Engineers (IEEE), Engineering in Medicine and Biology Society (EMBS))。
スミス博士は、研究のほか、エンジニアと工学部の学部生を対象に統計学の講義も行った。大阪大学の教育環境は、刺激的でインクルーシブだと感じた。また、日本のアカデミアにおける確固とした労働倫理やディスカッションにおけるオープンさも実感し、米国との違いを感じたと言う。
スミス博士は、初週からジャーナルクラブ(論文輪読会)や研究発表など日々の活動に積極的に参加した。来日直後でまだ時差ボケが抜けきらないような時期から研究室のイベントへの参加を誘われるなど、いつどんなときでも、同じ研究室の18名の学生たちはスミス博士を研究室に馴染ませようと最大限の努力をしてくれたと、感慨深く振り返る。「国際教育交流センターのスタッフの皆様も、あたたかく迎えてくださって、フィールドトリップやソーシャルイベントなどを通して他学部の学生たちとも交流する機会を得ることができました。おかげで多くの方と打ち解けることができました」
スミス博士は日本滞在中、鹿児島、京都、奈良、広島と、日本中を旅した。それぞれの土地の料理や、城や博物館へ訪問し、豊かで活気に満ちた日本の文化を存分に味わうことができた。特に印象深かった出来事として、アメリカの地元のアメフトチームと遭遇し、図らずもボール投げの練習に参加したことを挙げた。
日本文化に興味を持ち、長年俳句を嗜んできたスミス博士にとって、文化面でも特別な経験をした。俳句を通じて朝日新聞の俳句編集者と縁がつながり、俳句と統計学の共通点について分野の垣根を越えて論じる記事を共同で執筆したのだ。同記事は、American Statistical Association が発行する CHANCE magazine の2025年2月号に掲載される予定だという。「日本では何度も『俳句』を肌で感じる瞬間があり、心の琴線に触れる経験でした。俳句とは、胸に訴えるその瞬間を詩という形で切り取って詠みます。他の人もその情景を同じように思い描けるようにするためです」
スミス博士は自身の経験を振り返り、フルブライト・プログラムへの応募を考える人に対して次のようにエールを送った。「焦らないことが重要です。応募1回目で不合格になったとしても、失敗から学び、挑み続けることで道は開けると思います。異文化への敬意を胸に、オープンな気持ちで新しい経験を存分に吸収してください。何か間違えてしまうこともあるかと思いますが、謙虚な気持ちで接すれば相手もきっとわかってくれるでしょう」
スミス博士にとって、フルブライト・プログラムは単なる研究交流ではなく、それを超えた経験となった。研究の幅が広がったことはもちろん、文化に対する理解も深まり、自分自身に変革をもたらしたと振り返る。彼の経験は、国際共同研究と相互理解の促進を目指す本プログラムのミッションをまさに体現したものだと言えよう。