フルブライトストーリー

No.62 フェイス・リトバック

共立女子大学で受け持ったクラスの生徒たちと

世界観が一変した日本での経験——日本でアメリカの法律を教える

原文は英語です

滞在していた横浜で咲いていた桜
鎌倉大仏

フェイス・リトバック教授は、数十年にわたってフロリダ州で弁護士として活躍していたが、教職に情熱を抱き、現在、Florida State College at Jacksonville に勤務している。日本でのフルブライト・プログラムを終えた今、自身が専門とする法制度を含め、日米では、教えることやコミュニティーに対する考え方が根本的に異なるという新しい見識を本国に持ち帰った。

当初、リトバック教授は、直近10年間の教職経験を除くと、それまでのキャリアの軸を研究や教育に置いていなかったため、フルブライト・プログラムに応募ができるとは思わなかった。しかし、家族から教員も対象になるという情報を耳にし、応募を決意した。リトバック教授は、以前から日本に対して興味を持っていたが、滞在経験はなかったという。審査が通った2021年にフルブライト・プログラムで来日する予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の煽りを受け、プログラムの参加を断念した。その後、再度応募し、審査も通過し、2023年に晴れて来日を果たした。

リトバック教授は2024年3月から8月にかけて日本に滞在し、横浜国立大学と共立女子大学で教鞭をとった。滞在中、アメリカとの教育的アプローチや文化的視座に顕著な違いがあると気がついたという。「アメリカでは何でも個人単位で考える傾向にありますが、日本ではコミュニティーの意識が存在していて、より和を重んじる傾向にあると感じました」

このような文化的な違いに直面したリトバック教授は、日本の従来の教育手法を尊重しつつ、アメリカの授業でよく用いられる『edutainment』を取り入れて、学生たちの学びを深めた。『Edutainment』 とは、教育(education)と娯楽(entertainment)を組み合わせたインタラクティブな手法だ。その結果、学生たちはアメリカの複雑な法律概念や重要判決について理解した。期待以上の成果を得たことにより、教育交流は文化や言語の壁を越えられると確信した。

私生活においても、リトバック教授は、日本文化への造詣を深めていった。読んでいた本を通して偶然始まった会話から、話が弾み、読書クラブの立ち上げに関わるなど、地元の方たちと強い絆を築いていったという。更には、日本中に張り巡らされ充実した公共交通網を利用して17の都市に足を伸ばした。「女性の一人旅でも身の危険を感じることはありませんでした。また、目に映る全てのものが私にとって興味深く、その瞬間を生きているという確かな実感が常にありました」。特に印象深い経験として、富士登山を挙げた。「とても神秘的で、人生が変わるような経験でした」

リトバック教授のフルブライト体験は、彼女の世界観を変える大きな出来事となった。特に、日本における自然と人間の調和には深い感銘を受けたという。「日本では人間と自然のバランスにより重きが置かれていると感じました」。

今回、日本の大学で教えた経験を踏まえ、至ってシンプルだが応募者へアドバイスをする。「とにかくまずは応募してみてください。応募すれば合格する可能性があるのですから」。偽りない自分らしい申請書類を準備し、思い切ってコンフォートゾーンから一歩踏み出すよう勧める。応募の準備過程は往々にしてとてつもなく量が多く、時間がかかるように感じるが、少しずつ、且つたゆまない努力で取り組めば必ずやり遂げることができる、と応募者の背中を後押しした。リトバック教授は「他の文化を理解することが、より良い世界を作っていく一助につながるでしょう」と、フルブライト・プログラムに参加する意義を語る。

アメリカの法廷から始まり、日本の教室に行き着いたリトバック教授の旅は、法教育という窓を通じてより深い文化価値の理解と国家間の相互理解の促進へつながった好例であり、文化交流が持つ底知れない力の証明といえるだろう。